EDITOR'S COLUMN

Tomoko Delgado/LONDON

中世の理髪師『Filistrucchi』

2009.05.27
text : Kaori Watanabe

中世の街並みが残っているというのがフィレンツェの特徴であり魅力でもあるのですが、建物だけではなく、人を通して様々な伝統も受け継がれているというのには、いつも感心させられます。今回は、300年前からある理髪店「Filistrucchi」(フィリストゥルッキ)を紹介したいと思います。

フィレンツェ理髪店の歴史

左から700年代の女性、ロココ調の女性

Filistrucchiの始まりは、1720年のフィレンツェ。当時の理髪店というのは、かつら屋、薬草屋、歯医者、瀉血専門医、香水屋、美容師、メイクアップ・・・というのをすべて兼ねていました。そのイメージとしては、ロッシーニのオペラに登場するセビリャの理髪師「フィガロ」を思い浮かべていただくと、ピッタリくるかもしれません。貴族、そして上流階級のご婦人や紳士たちが顧客だったのと同時に、「舞台」が人気を高めていった時期で、俳優さんたちのヘアーメイクを手がけるようになります。 Filistrucchiは1800年代、フィレンツェに存在した多くの劇場で行われる『舞台の世界』で活躍をしていきます。 1900年代に入ると、世界的に有名なフィレンツェ5月音楽祭が始まり、開催当初から多くの俳優たちのメイクを担当していくことになりますが、その中には、マリアカラスやパバロッティなどの有名な俳優たちももちろん含まれています。 時代の流れと共に、映画の特殊メイクや、テレビ・写真の撮影メイク、そして、ファッションショーの世界へと活躍の場を広げていきました。

現在はファッションイベントでも活躍

ショーの様子 真ん中はゲラルドさん

フィレンツェで最も大きなファッションイベントに「ピッティウオモ」という紳士服展示会があります。年に2回、1月と6月に開催され、世界中から多くのバイヤーやモード関係者たちが押し寄せてきてフィレンツェ中が華やかなお祭り気分につつまれる時期です。 展示会開催中には、街のあちこちで、ファッションショーなどのイベントが行われますが、その際にも、Filisturicchiはひっぱりだことなります。専門得意分野のかつらの製作だけではなく、想像力を最大限に発揮させたボディペインティングや、特殊メイクの技術を生かしてモデルさんたちを大変身させていく様子はまるで魔法使いのようです。

左から製作中のガブリエレさん、巨大ベアブリックはエミリオプッチとのコラボ

また、セレクトショップ・ルイザヴィアローマに展示された巨大トイ(ベアブリック)は、エミリオプッチとのコラボレーションで、とても話題になりました。『ブルーベルベット』で一躍人気女優となったイタリア・ローマ出身の女優、イゼベラロッセリーニをイメージしてつくられたベアブリック。Filistrucchiはかつらと付けまつ毛を担当しました。ちなみに、ベアブリック売り上げ金は寄付されるというチャリティイベントとして、世界中をまわったそうです。

300年間同じ場所にありつづける工房

工房のある、ベルディ通りには、テアトロ・ベルディという大きな劇場や、多くの美術品が眠っているサンタクローチェ教会などがあったりと、フィレンツェの中でも大変活気のある地区です。通りからは気づかないのですが、中へ入ってみると工房はとても広く、2階にも別の部屋があって、かつら用の木型がずらりと並んでいたのは圧巻!歴史の重みをずっしりと感じました。その前で、どのようにかつらを作るか、というのを息子のゲラルドさんが実践して見せてくれました。かつら製作には本物の人の毛が使用されるそうで、作品の仕上がりも、まるで魂がこもっているよう・・・。
現在は父親のガブリエレさん、息子のゲラルドさんの二人が中心となって仕事がすすめられています。日本の有名な俳優さんも、撮影用にメイクをしたことがあるといって、その時の様子を楽しそうに語ってくれました。その際には、日本人俳優さんを、イタリアの歴史的有名人物に見事に変装させたそうです。

300年前からかわらず同じ場所にあるという工房の中で、親から子へと受け継がれてきた技術と伝統。そして「伝統」と「今」が常に共存して、新しい文化を生み出していくというのは、まさにフィレンツェらしい歩み方だなと、しみじみ思いました。

Filistrucchi
Via Giuseppe Verdi,9
50122 Firenze
http://www.filistrucchi.it

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Kaori Watanabe
EDITOR
フィレンツェ在住ライター 渡邊香里
1995よりフィレンツェ在住し、コンテンポラリージュエリー作家として活躍。
オブジェ・写真等、様々な分野で作品を制作発表。
その傍らファッション系、海外情報系記事の執筆を行っている。
フィレンツェにて友人たちとアソシエーションを設立し、文化交流活動中。
URL: www.kaoriwatanabe.com

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